ある週末の話

エリザベート教会

シュタインヴェグから見たエリザベート教会

 ある金曜日の午後、学校が終わってから買い物をして寮に戻ると、同じ階に住むきみちゃんが、「きゃ〜、待ってたんですーーー!」と、珍しく私達に話しかけて・・・というか、普段は部屋にこもっていて、食事さえも自分の部屋で食べるきみちゃんが、私達に助けを求めているようでした。きよちゃんが、「どうしたん?」と聞くと、「割っちゃったんですー!」と言いながら、バスルームへ向かいます。

 なんだ、なんだ、と一緒にバスルームへ行くと、洗面台の下についている戸棚の扉が割れています。この扉は、飾りガラスでできた一枚扉で、90度開いたところでタイルの壁に当たります。きみちゃんは、普通に(思いきりではなく)扉を開けたら、扉がタイルの壁に当たって、パリーンと割れてしまったそうなのです。きみちゃんは「どうしよ〜。」と、慌てていました。「これは、弁償しないとだめですよね。でも、私はわざとやったんじゃないんです。」と言うので、きよちゃんが、「とりあえず、大家さんのところに行って、事情を話して謝ろう。」と、きみちゃんをなだめて、二階に住む大家さんのところへ向かいました。でも、大家さんは留守でした。夕方行っても留守で、明日にしよう、ということになりましたが、きみちゃんは、「明日は朝から旅行に行くから、私は謝りに行けないんです。」と言うのです。「あさってじゃダメですよね?」と言うきみちゃんに、きよちゃんは人がいいので、「じゃぁ、俺が明日、大家さんに事情を話しておくよ。」と、一人で引き受けてしまったのでした。保険には入ってるのか聞くと、入ってきた、と言います。だったら、賠償保険がきくはずだから、最悪の場合は保険会社に連絡する手はずを取っておいてね、と言いました。

 次の朝、きみちゃんは予定通りに一泊旅行へ行ってしまい、昼過ぎに、きよちゃんは一人で大家さんのところへ事情を話しに行きました。大家さんは、少し怒っていたようですが、きよちゃんは、自分がやったんじゃない、今旅行に行ってる彼女がやったから自分に言われても困る、保険にも入ってるらしいから、明日帰ってきたら、彼女と話しをしてくれ、と説明します。

 午後、まみちゃんが遊びに来て、ことの次第を話すと、その話で盛り上がりました。きみちゃんは週末の度に、ドイツ国内のいたるところへ一泊旅行に出かけます。今回は、ガラス戸を壊して、大家さんと話しができていないにもかかわらず、旅行へ行ってしまったのです。しかも、大家さんに謝るという大役をきよちゃんに押しつけて。以前、きみちゃんは、「うちは親のしつけが厳しかった。」と言っていたことがありました。その厳しくしつけられたきみちゃんは、物を壊して、所有者に謝らずに旅行に行ってしまい、謝る役は他人に任せるという理解しがたい子でした。それから後も、きみちゃんは私達に話題を提供してくれる子だったのです。

 まみちゃんが、Markt(市)でサクランボを買ってきてくれたので、それを食べながら、まみちゃんと私達は、3人でずっとトランプを3時間くらいしていました。まみちゃんが、ドイツに来る前に、イギリスで申し込んだキャンピングツアーで3カ月かけてヨーロッパをまわった時に、イギリス人から教えてもらったという、点数をつけるトランプ遊びでした。

 日曜日の夜、きみちゃんが旅行から帰ってきました。第一声が、「どうでした?」です。もちろん、おみやげも何もありません。「大家さんに言ったけど、弁償の話しをしてたよ。まだ遅い時間じゃないから、今からとりあえず、大家さんのところへ行こう。」と言うと、「そうですね。」と言って、大家さんのところに謝りに行きました。大家さんは前日とあまり変わらず、でも、少し落ちついた様子で、学校と話し合いましょう、ということになったようです。

 月曜日に学校へ行くと、もうすでに大家さんから連絡が行っていたらしく、フラウ・シャワーに呼び止められ説明します。彼女の保険を使うかどうかという話しになりましたが、結局、学校が入っている保険で払うことになりました。でも、私達が8月に寮を出るまでに、その扉が直ることはありませんでした。